歩いてどこまで行けるかと考えると,自分の寿命はそこまでだとわかる。だが,テラまで1秒,1歩に100万光年の世界では,寿命は定まらない。冒険に,終わりはない。
オンラインRPGのエバークエストにはまって,現実社会に支障をきたす人は多い。先日は息子の自殺の原因として母親がエバークエストを非難していた。ゲーム中毒者のなかには自分が中毒だと気付いていない人も多い。だが人との関係作りが苦手な人にとっては,さまざまな役割やアイデンティティを試すことができる。
地球上では,距離と時間は比例する。移動には時間がかかる。だが有史3000年ほどを経て,地球上には冒険すべき地など残っていない。ありふれた風景,見慣れた景色,使い古された技法建築。止まらぬ人口の増大は,人目に触れぬ地表を消し,迷い子が迷いの森の奥へと消えてしまうこともなくなった。なにせ,迷いの森の奥にあるのは,やっぱり喧騒に包まれた街並みだからだ。
ワイヤード上では,距離と時間は相互につながっている。1テラkmを1秒で移動し,1歩先へと100万光年の時間を費やすことも普通だ。地球上の時間にすると数億年ものときが過ぎゆくなかで,1秒前の道徳は1秒後の不徳となる。昨日の荒野が今日にはメガロボリスとなり,明日には遺跡となる。人は固定の人でいる必要はなく,1分間で1000人の自分を表現できる。どの自分も偽物ではなく,真実の自分が1000人いる。そして,まだ誰も目にしていない景色が地平線まで続く道を歩む。止まる必要などない,距離と時間はつながり続けているんだから。
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